第185臨時国会は、特定秘密保護法などの成立を受け、会期末の8日を前に事実上閉幕した。最終盤で自民、公明両党は、野党が徹底審議を求める中で秘密保護法の今国会成立に突き進み、「数の力」で押し切る強引な印象を与えた。一方、野党側は民主党、日本維新の会、みんなの党の主要3党の国会対応が迷走。共闘関係も築けず、最後まで与党ペースの運営を許した。
◇官邸と温度差も
10月15日に召集された今国会は、7月の参院選で衆参の「ねじれ」が解消して初の本格国会となった。安倍晋三首相は「成長戦略実行国会」と銘打ったが、召集後は秘密保護法をめぐる与野党の対立が日増しに激化。「秘密保護国会」の様相を呈した。
与党は当初、「丁寧な国会運営」を宣言。秘密保護法では野党との修正協議に時間を割き、維新、みんな両党との合意にこぎ着けた。衆院段階ではみんなは賛成し、党内で賛否が伯仲した維新は採決を棄権。ただ、協議を優先した結果、最初に想定した衆院通過の時期はずれ込み、そのしわ寄せが参院に及んだ。
参院審議を加速させるため、与党は国家安全保障特別委員会を委員長職権で何度も開催。野党が猛反発する中、5日に質疑を打ち切り、採決に踏み切った。このため、維新に加えてみんなも採決を退席。「野党の一部を巻き込んで、強行突破の印象を薄める」(自民党幹部)というシナリオはあっさり崩れた。
会期延長をめぐる政府・与党内の調整ももたついた。首相官邸サイドは2014年度予算編成などの日程を考慮し、「延長の必要なし」(首相周辺)との方針に固執。これに引きずられた与党側は、法案が時間切れで廃案になることを懸念しつつも判断が遅れ、延長の本格検討に入ったのは当初の会期末前日の5日だった。自民党の脇雅史参院幹事長は、9日までの延長を石破茂幹事長に提案したが、1日短縮することで落ち着いた。
強引さが目立った幕引きに、自民党内では「何でこんなに焦ってやったのか。支持率は落ちるだろう」(閣僚経験者)と危ぶむ声が漏れる。
◇党内結束に不安
民主党は秘密保護法の成立阻止を目指し、内閣不信任決議案や森雅子内閣府特命担当相の問責決議案などを乱発。しかし、内閣不信任案採決では維新が反対に回り、野党間の足並みの乱れが改めて露呈した。秘密保護法が成立した6日深夜の参院本会議で、民主党はいったん退席したにもかかわらず、党内で異論が噴出したため、再び本会議場に戻って反対票を投じる失態も演じた。
同党の海江田万里代表は「参院の戦術は(参院執行部に)任せている」と記者団に釈明したが、党内すら束ね切れない野党第1党党首の迫力不足は否めない。
維新では、秘密保護法の修正協議に前向きだった旧太陽の党系と、これに批判的な大阪選出議員らの対立が再燃。みんなも、衆参の採決で造反者を出した。与党との修正合意を主導した渡辺喜美代表への不満は党内で強まっており、渡辺氏と確執を深める江田憲司前幹事長らが年内にも離党し、分裂するのではないかとの見方も取り沙汰される。
(時事通信 2013/12/07-18:32付けより引用)
特定秘密保護法 官僚制に“鎖”をつけよ
「反対」の声を無視し、成立した特定秘密保護法は、官僚が情報支配する道具だ。国会議員は目を覚まし、官僚制にこそ“鎖”をつけるべきである。
<自らの支配者たらんとする人民は、知識が与える力で自らを武装しなければならない>
米国の第四代大統領のジェームズ・マディソンは、一八二二年に知人宛ての手紙にそう書いた。
日本の支配者は、主権者たる国民のはずである。その国民が情報を十分に得られなかったら…。マディソンはこうも書いている。
<人民が情報を持たず、または、それを獲得する手段を持たないような人民の政府は、喜劇への序幕か悲劇への序幕にすぎない>
◆善良でも「省益」に走る
政府には喜劇であり、国民には悲劇である。主権者たる国民は本来、支配者の自覚で、情報がもたらす知識の力で「武装」しなければならない。それゆえ、憲法は「表現の自由」を規定し、国民は「知る権利」を持っている。
だが、膨大な行政情報を握る官僚制は、もともと秘密主義をとりたがる。国民に過少な情報しか与えない仕組みになっている。
「『職務上の機密』という概念は、官僚制独自の発明物」と看破した社会学者マックス・ウェーバーは、こう述べている。
<官僚制的行政は、その傾向からいうと、つねに公開禁止を旨とする行政なのである。官僚制は、その知識や行動を、できることならどうしても、批判の眼(め)からおおいかくそうとする>
これは情報公開制度を使った経験のある人なら、容易に理解するはずだ。「非開示」の通告を受けたり、真っ黒に塗りつぶされた文書を“開示”されたりするからだ。新聞記事すら、黒く塗りつぶして、「公開」と称する。
個人として善良な官僚たちでも、組織となると独善に陥り、「省益」を守るべく奔走する。
◆無力な国会でいいのか
特定秘密保護法は、さらに官僚制に好都合な装置だ。行政機関の「長」の判断で、重要情報を国民の目から覆い隠せるからだ。「安全保障」のワッペンさえ貼れば、違法秘密でも秘匿できる。
先進国の中で、官僚制にこれほどフリーハンドを与えている国はあるまい。欠陥がぼろぼろと出てきたため、政府は改善と呼ぶ提案をトランプのカードのように次々と切ってきた。「保全監視委員会」を内閣官房に、「情報保全監察室」を内閣府に…。
だが、行政機関を身内の行政機関が客観的に監視できるはずがない。法律本体が欠陥なのだから、取り繕う手段がないのだ。それならば、いったん成立した法律を次の国会で廃棄するのが、最も適切な対応だと考える。
首相や与党幹部は、考え違いをしていないか。自民党の石破茂幹事長は「絶叫デモはテロ行為と変わらない」とブログに書いた。
同党の町村信孝氏も「知る権利が国家や国民の安全に優先するという考え方は、基本的に間違い」と述べた。憲法を否定し、「主権在民」ではなく、「主権在官」だと言っているのに等しい。国民あっての国家であることを忘れてはいないか。
安倍晋三首相が目指すのは「美しい国」だ。世界中の民主主義国家では、多種多様な意見がひしめき合うのを前提に成り立っている。安倍首相の頭には、整然とした統制国家があるのではないかと思える。
秘密保護法はまさに情報統制色を帯びている。だから、国民の代表者である国会議員をも処罰する規定を持たせている。特定秘密には国政調査権も及ばない。議員はまるで無力である。国会は政府の言いなりの存在になる。
国権の最高機関よりも、行政権が優位に立つ不思議な国の姿になろう。三権分立を崩す法律には、議員こそ反対すべきだった。その反省に立ち、議員らは官僚の暴走を食い止める“鎖”となる仕組みを構築するべきだ。
過去の情報漏えい事件は、ずさんな管理が原因のものばかりだ。むしろ、官僚に対して、命令形の用語を使った情報管理システムをつくったらどうか。「情報は国民のもの」という原則で、情報公開法を全面改正する。公文書管理法も改正し、行政に説明責任を果たさせる-。官僚制に“鎖”をつける方法はいくらでもある。
◆知識で武装するために
首相は「国益」というが、これまでの経験則では官僚が狙うのは「省益」だ。「国民の利益」はいつも置き去りとなる。
民主主義を機能させるには、国民は情報がもたらす知識で「武装」せねばならない。
少なくとも情報公開法と公文書管理法の抜本改正という、トランプのエースのカードを国民に与えるべきである。
(東京新聞 2013.12.08付けより引用)
安倍は余程戦前の体制が望ましいと思っているようだ。かの男の頭は第一次内閣時に打ち立てたスローガン『美しい国、日本』のイメージを実現させることしかないのだろう。でなければ今回のように悪法である『特定秘密保護法』を強行採決と数の力で押し切らない。次に引用する記事もまさに安倍の思考を突いている。